2012年9月29日土曜日

[#Cloud #クラウド ] OpenStackの隠れた一面 = エコシステム•ロックイン

Open Stack Summitを数週間後に控えた状況の中、Open Stackのオープンソースに関する懸念がいくつかのレポートを通して表面化し始めている。

Gartner Research: Lydia Leong氏
ベンダーロックインの懸念を解消するためのオープンソフトウェアとしてのOpen Stackでありながらも、新たに、"エコシステム•ロックイン"と呼ばれる問題がOpen Stackの問題として登場している、と言う点を指摘している。合わせて、この問題を避けるために、3rd partyによるクラウド管理ツールやAPIライブラリの採用が必要である、と提言している。

同氏が書いたレポート、
によると、元々、「オープンであり、広く採用する事が自由にできる標準」、という事で定義されているオープンソフトウェアとしてのOpen Stackは、実はかなり現実と離れている、と指摘している。

「Open Stackは複数のIT企業によって制定され、他に見られるような個人的な寄与によるオープンソフトウェアとは性格を異にしている。Open Stackの団体を構成している企業で、例えばRackspace社は、Amazon Web Service (AWS)を明確な競合相手である、と見ており、一社だけではAWSの独占的な市場成長を止める事が出来ない、と判断しているが故にOpen Stackという団体の運営を行っている、と言える。」
"OpenStack is dominated by commercial interests, as it is a business strategy for the vendors involved, not the effort of a community of altruistic individual contributors. Some of the participants, notably Rackspace and other service providers are afraid of the growing dominance of AWS in the cloud IaaS market and do not believe that they have the ability to muster, on their own, the engineering resources necessary to successfully compete with [Amazon Web Services] at scale, nor do they want to pay an ongoing license fee for a commercial [cloud management platform]  like VMware's vCloud stack."

こう述べた上で、この要件がある故、今後のクラウドデータセンタをデザインする上で、Open Stackをコアにしたアーキテクチャを目指してはいけない、と述べている。

一方、先行的に新技術を導入したり、まだ若いソースコードの品質を向上するためにエンジニアリソースを投入したい、という会社にとっては非常に適している技術である、と言及している。

このレポートはこのリンクにて無償で読む事が出来る。

もう一つ、Open Stackに対する懸念材料として、組織が業界の大手ベンダーによって構成されている、と言う点である。参加企業は、Rackspace, NASAからスタートして、IBM, HP, Cisco, Dell, SUSEそして最近ではVMWareが名を連ねている。
各社の共通の目的としてOpen StackをAWSに対抗できる技術として育てていこう、という意識がある点では良いが、それと同時に参加企業各社は明らかにIT業界の中で競合し合う企業である、という事実も認識する必要がある。

Open Stackの狙いとして、クラウドアーキテクチャの中Linuxの様な存在にしたい、という意見が多く登場しているが、果たして本当にこの競合状況の中でLinuxの様な統一規格が実現できるのか、それともUnixの様に各社各様、それぞれ異なる仕様をもったAPIになってしまうのか、という懸念が大きく残る。

最近のOpen Stack Foundationの動きは、Rackspaceが従来持っていたスターティングメンバーである権力状態から脱出し、影響力を少なくする方向に動いている事が顕著である。
新組織は、リーダーをSUSEのAlan Clark氏、Cisco VP/CTOであるLew Tucker氏を登用し、Rackspaceの幹部が退いている事が明らかになっている。また、"Network Connectivity as a Service"といった新機能を盛り込んでいる、Folsomというリリースも、Rackspaceの影響がかなり少なくなっている、という事が話題になっている。



個人的な所感としては、90年代前半に起きた、Unix標準化に向けてIT業界が大きく動いていた時代を思い出させる状況である。
当時は、Sun MicrosystemsがSolarisで絶対的な市場を確保する中、X/Openという業界団体が登場し、広く採用できるオープンなUnixのカーネルAPIを制定する動きに続いて、Open Software Foundation (OSF)と呼ばれるHP, DECを中心としたさらに大きな業界団体が産まれた時代である。結果として、OSFの存在価値が一定の評価を受ける中、実際には参画企業各社がそれぞれ独自の仕様を盛り込んだOSF準拠のUnix OSを開発する結果となり、メンバー間のUnixアプリケーションの互換性は十分に確保できなかったのが現実。細部まで仕様を標準化できない要因として、各社が製造するハードウェアに依存するAPIであるが故に、そもそも共通化できるカーネルのAPIの範疇が狭すぎたのでは、という意見も多く登場した時代である。
クラウドAPIも、下部レイヤーに存在するVMハイパーバイザ、ネットワーク仕様、CPU/ストレージ等のインタフェース等が少なからずも意識した仕様になるはずであり、各社Open Stack仕様を100%共通化しようと思っても無理な相談なのでは、と思うところである。

Apple iOSの様な下から上まで全部一社で統一した仕様がよいか、と言ったらそれはそれで問題がある事はわかるが。





Ippei Suzuki