2012年10月9日火曜日

[#Cloud #クラウド ] 時代はソーシャルからゲーミフィケーションへ

9/16のGigaOm記事より。

企業向けのソーシャルネットワーキング技術は、昨年のSalesforce.com社のBuddy Media社の買収($689M)、や、Microsoft社のYammer社の買収($1.2B)等を筆頭に、買収対象として大きくクロースアップされてきている。このトレンドがさらに進歩して、Gamification(ゲーミフィケーション:ゲーム理論に基づく業務の最適化)をターゲットとした買収に発展するだろう、というのが同誌の予測。

ゲーミフィケーションは、ポイントやバッジの獲得、リーダーボードと呼ばれる順位表の採用、賞品の提供、等、人間が元来持っている遊び、競争心、ゴール達成感、等に対する欲望を駆り立てる点が大きな特徴である。コンシューマ向けのアプリケーションの世界では何年も前から存在し、飛行機のマイレージプログラムや、ポイント制度等、非常に種類も数も多い。
この理論を、企業内の従業員に対しても適用し、生産性を向上させるようなソリューションにならないか、と言うのが昨今の企業が考えている事である。

 ITのコンシューマ化、という言葉でも昨今のIT業界に於ける変化を見る事が出来、このゴールを達成するためには、エンタプライズが今後買収を通してそのノウハウの獲得に動くだろう、と予測されている。

Gamification Summitという業界団体も存在し、そのChairmanである、Gabe Zichermann氏によると、買収は今後12~24ヶ月間の間に非常に活発になるだろう、と予測している。

同氏は、既に市場として確立されつつある上記のソーシャルネットワーキングアプリにさらに機能を追加する形でゲーミフィケーションアプリが採用されるパターンが増えるだろう、と予測しており、既にSalesforce.com社のRypple社の買収や、IBM社が自社開発している、Innov8の様な動きが顕著になりつつある。

Gartner Groupの予測によると、2014年までには、70%のグローバル企業が少なくとも1つのゲーミフィケーションアプリを採用しているだろう、と予測しており、さらに企業内の業務改善に取り組む部門の半分は、2015年までにはその業務をゲーム化するだろう、と予測している。
その方法としては、自社内で開発を促しているケースもあるが、BunchballBigDoorGigya等のベンダーの技術を採用するケースも急激に成長している。

Bunchball社は、2007年に自社技術を開発し、既に200社の顧客を持つまでに至っている。顧客も、Warner Brothers、Comcast、Hasbro、Mattel等、大手のエンタプライズが目立つ。興味深いのは、従来、ゲーミフィケーションの採用を通してコンシューマを引き込む戦略を作り上げていたのが、今では企業内の従業員の生産性を上げるために利用されている、と言う点である。

これらの企業に共通している点として、ゲーミフィケーションが企業内の従業員にITアプリケーションを積極的に利用してもらうためのモチベーション強化に寄与している、と評価している、と言う点である。

Bunchball社は、昨年、Nitroと呼ばれる製品を発表しSalesforce.comのAppExchangeで提供を開始している。この製品は、Salesforce.comのユーザに対して簡単にゲーミフィケーションツールを統合するソリューションを提供している。同様のアプローチで、Jive社との協業で、Jive社のソーシャルビジネスプラットホームにもゲーミフィケーションソリューションを提供している。



今後大きな分かれ道になりうるのは、エンタプライズ企業がこういったベンダーの技術を採用するのか、それとも自社開発に投資するのか、と言う点である。これについては、まだ方向性が見えていないようである。その決め手になるのは現在先行的にこの技術を採用している事例の成長具合であろう。アナリストの中でゲーミフィケーションは単なる一時のトレンドであろう、と評価している人も多く、実際の成果がどういう形で現れるかが業界が注目しているところである。



さて、このトレンドは日本のIT業界によって吉と出るか、凶と出るか。元来、NTT DoCoMoのiモードの時代から携帯端末でのゲームの文化は日本市場が欧米社会より遥か先を走っていた年代が長い。これはスマートフォン等と言う言葉が登場するはるか前から登場し、広く市場に浸透していった文化であり、そこで培われたノウハウは相当の価値がある、と容易に想像できる。ここで蓄積されたノウハウを、この記事で言うエンタプライズの世界にうまく展開できる方法論については、北米の市場の動向をよく見ながら、うまく日本なりのゲーミフィケーションのビジネスを作り上げる事が大事なのでは、と思う。

これはゲームの世界と、エンタプライズの世界という、かなり距離のある業界を両方知る事により始めて見いだせるビジネスなのでは、と考える。意外とこの2つの業界は距離が離れており、日本国内に於いては出来るだけこの2つの業界の間にブリッジを築くための動きが出る事を期待したい。

2012年10月4日木曜日

[#Cloud #クラウド ] Amazon Web ServicesとSalesforce.comがクラウド事業から離れる!?

enStratus社のJames Urquhart氏はいつも興味深い記事を投稿しているが、久しぶりにビジネス色の濃い記事をGigaOmに投稿してます。

題目は、「何故、AmazonとSalesforceがクラウド業界から撤退しているのか?」という一見ショッキングな内容。

彼は、2011年にに似たような予測をしていて、その時はMicrosoftとGoogleが次のクラウド業界を独占するだろう、とうものであった。この予測は見事はずれ、今はAWSとSalesforce.comが市場の2台巨頭である事を認めている。

この辺のスタディの経緯、また、何故今はAWS、Salesforce.comなのか、まずはその辺からの説明を行っている。

クラウドコンピューティングは今や、万能選手ではない、という事は市場が十分に理解している。ここ数年の間、様々なクラウドサービスが登場しているが、本当に成功しているのは、ほんの一握りしか無い、と言うのが彼の解釈。

SaaSに関しては、まずこのカテゴリー自体が事業として成立している事自体が驚きであるが、つまるところ、特殊なコンシューマアプリケーション、もしくは汎用的なビジネスアプリケーションでの成功事例が全体を占めている、と言える。

IaaSに関しては、2つのアプリケーションモデルしか成功させていない、と言える。一つは、大規模なウェブアプリケーションと、データ分析/処理アプリである。一方、企業のレガシーアプリケーションのクラウドへの移行はまだ大きな動きになっていないし、今後もあまり期待されていないのが現状。結局、IaaSの価値は、アプリケーションのもつ2つの要件、i) 大量の演算処理の高速実行(データ処理)、ii) 負荷の変動が激しいアプリ(Webアプリ)に限定されている、という事が言える。

PaaSに関しては、期待が大きい一方、IaaS/SaaS程の利用実態が無く、今後期待されるのは、IaaSで成功しているアプリのための開発/運用環境、もしくは特定のSaaSアプリの機能拡張のための環境という2つに限定されるのでは、と考えられる。


何故、Amazon Web Servicesがこれだけの巨大な独占事業に成長したのか、その理由は決してAWSが他社が追随出来ない機能やサービスを持っていた、と言う訳ではない。最大の問題は、競合他社がAWSに真に対抗すべく戦略的な動きを取らなかった事にある、と言いたい。IaaS事業者の殆どはEC2やS3と同等のサービスに加え、場合のよってはRDS(DB)やSimpleDB(Key value store)と同等の機能をサービスとして提供しているが、この程度ではAWSが本質的に持っている力と戦略を理解している、とは思えない。 AWSの本当の戦略性は、Reserved InstanceとかSpot Marketのようなクラウドインスタンスを再販する事業モデルや、統合された管理コンソールの提供、また、クラウドユーザの求めている本当のクラウドサービスの品揃えをしっかり把握し、実行に移している、と言う点である。

たしかにMicrosoftは競合力はあるが、今は開発者に特化した開発コンポーネントを提供しているサービスに過ぎないのが現状である。AWSのサービス開始当初もそうであったが、クラウドの本当の価値は、企業の開発部門では無く、オペレーション部門にもたらされる、という事をAWSが知った時点から大きく成長を遂げた、という事が言える。これは、James Hamilton氏が長く主張していたポイントである。Reserved InstanceやSpot Marketは正にその戦略の現れである。

この流れの中で、最近新たに、Glacierと呼ばれるデータアーカイブ専用の低コストクラウド、EC2 Reserved Instance Marketplaceという、Reserved Instanceを再販できるマーケットプレイスが発表されている。11月に予定されている同社のカンファレンス: re:Inventにおいても、このビジネスの新たな方向性がさらに明確になる事が予測されている。

一方、GoogleもAWSと競合するポテンシャルを持っているが、上記にオペレーション部門に対するサービスを確率する動きはまだ何も見えていない。アプリケーション開発の管理インタフェース、様々なGoogleサービスを統合的に管理するコンソール等、まだまだ道のりは長い、と言える。

このような状況を見るにあたり、AWSの確固たる地位が単に機能セットとかサービスの種類、という事ではなく、ターゲット層の見極め、それに適合したメニューの確率、と言う点で大きく他と差を付けている、と言うのが論点である。


もう一つ、クラウド市場で成功する大きな要件になるのは、様々なビジネスサービスを単一のインタフェースを通して提供する事が出来る、という事である、と信じる。しばらく前まではMicrosoftやGoogleの様に業務アプリケーションを多く持つ会社がこのセグメントリードする、と思っていたが、今はSalesforce.comが大きく市場を牽引している、と言える。

Sadagopan Singham氏が書いたブログが先日開催されたDreamforceイベントについて述べているが、このイベントに参画して実感したのは、Salesforce.comは「Enterprise Nerve Center」(企業の中枢神経)を目指しており、企業内の様々なビジネス要件に対して統合的にサービスを提供できる中心的な存在である、と解説している。

Salesforce.comの最大の強みは、企業内の従業員、そのパートナー、そして顧客との間のコミュニケーションの統合、それもビジネス面に加え、ソーシャル面でも同じ様にまとめあげる事が出来る、と言う点である。新規の業務が発生すると、それをうまく企業内の各部門に効果的に展開し、納期、売上を最大限に最適化するが結果的に見えるメリットである。自動化の促進、人間同士のコミュニケーションの効率化、そしてそれをすべて定量的に評価/分析できる、と言う点も優れている。

これは非常に先進的なアプローチである。従来の企業の事業に於けるITソリューションと言うのは、ドキュメント/帳票を電子化し、それを企業内でうまく回す事に注力されていた。結局それを動かすのは人間である事には変わらないし、コミュニケーションも従来の電話、emailの世界から脱していないのである。

Microsoftはこの先進的な市場をさらに先に持っていく力を持っている。Oracleもポテンシャルがある、と言える。かなり距離を置いてGoogleがうごめいている、と言う感じ。しかし、Salesforce.comはこの中で特に秀でて企業内のビジネスモデルを電子化する事に成功している、という事が出来る。


Disruptionというのは正に、AWSやSalesforce.comが実現しつつあるビジネスの事をさす、と言える。
両社については、今のこの状況が今後の市場のリーダーシップを保証する訳では決してないが、既存の機能セット重視、開発者をターゲットとしたクラウド事業から、企業業務全体、さらにオペレーション部門をターゲットとしたクラウド事業に変遷を遂げたこの2つの会社は、新たな市場の開拓、そして確固たる市場シェアの確率に大きく寄与する可能性がある、と言える。

一つ、今後起きうる可能性のある動きとしては、後続部隊の中で、Microsoftが大きく事業を延ばす事である。
従来の事業モデルだった製品ビジネスからサービス主体のビジネスへの移行、時間はかかりつつも、確実にその方向に向かっている事実がある事、さらに既存の大きな資産をこの新しい事業に移行するのは時間の問題である、と言える。

懸念されるのは、他のクラウド事業者がAWS、Salesforce.comのポジションからまだ遠く離れている、と言う点である。クラウドにとって、まだ開拓されていないニッチの市場もあるだろうが、そういった未開拓の市場へ参入もまだ見られない(様はAWS/SF.comが既に凌駕している市場に入り込んでいるだけ)。


以前から、クラウド事業は技術ではなく、ビジネスである、という事は内外から言われていたが、さらにビジネスから流通モデルへの変遷が起き始めている、と言うのがこの記事の言わんとしている事なのでは、と想像する。

この領域は、IT企業の持つノウハウだけでは通用しないところに至っている、と言う事が出来、そうだとすると、元々流通業であったAmazonの最も得意としている世界にクラウドを引き込んでいて、それを我々羊達が大人しくついていく、というモデルが出来上がっていると思うと少しがっかりもする今日この頃である。