企業にとってのAWSは、企業のIT資産に対して、スケーラビリティを保証するソリューション、という事で位置付けられる理屈である。 スケーラビリティに関しては、Werner Vogels氏はAWSの運用上のコスト構造を示す表をいくつか示す事でそれを証明している。
この3つの方法を取ることによって、サーバーの利用率をほぼ100%まで持ち上げることが出来、通常の市場のデータセンターの利用率である10〜30%をはるかに超える利用率を誇る。
Amazonはこの実績を今後エンタプライズ市場に強力に打ち出して行くことを宣言している。エンタプライズIT市場は非常に大きなマーケットで、大きなマージンも期待出来るものである。その市場に対して、Amazonはその強いネームバリューを打ち出し、CIOのAgility要求に対応するソリューションを提供出来る自信を持っている。(LAでイベントの開催している理由もここにある)
一つには、MicrosoftやVMWareの様な、エンタプライズ向けのクラウドソリューションに対する強力な対向意識と、合わせて、OpenStackの様なローエンドソリューションとの差別化を市場に対して明確にする事が目的なのでは、と想定される。
とは言え、次の様な点を始め、いくつか課題が残っている、という指摘もある。
1) Amazonの提供するVMイメージは、企業で多く採用されている、VMWareやHyper-Vのハイパーバイザーとの互換性が無い。
2) 企業のOn-Premiseシステムで多く採用されている管理系のアプリケーションの中で、AWSと連携出来るものは少ない。従って、エンタプライズのIT管理者は、On-PremiseにAWSを連携させる為には、既存の管理手順に加えて、全く新しい管理技術を学ぶ必要が出てくる。
3) ビジネス面においても課題が残る。エンタプライズにとって、AWSはまだ新しい企業であり、IBM、Microsoftと何年も契約関係を維持しているエンタプライズIT管理者にとってAmazonはまだ実績を持っていないニューフェイスである。
4) 実際に成功している事例をもっと作って行く必要がある。このイベントでも4社のユーザが次の様な事例を発表しているが、AWSが目指しているエンタプライズ利用とは少しギャップがあるのでは、という指摘もある。
a) サーバーの演算処理をEC2に対してオフロードする
b) イメージ処理を行う
c) Webサイトをホスティングする
d) 企業の電子カルテ情報をクラウド上で管理する
企業でのクラウドの導入が非常に盛んになってきている事を受けて、Amazonも正に今のタイミングを好機と呼んでいる様であり、こういったイベントを北米企業の各地で盛んに行っている様である。しかし、同時に、そう簡単にパブリッククラウドベンダからエンタプライズ向けのソリューションベンダーになる事は出来ない、という事も認識しており、もう少し大きな事業スケールと投資をもって企業ソリューション向けの戦略を立てて行く必要があるのでは、と想像する。 企業向けのソリューションを行うSI事業者、もしくはソフトウェアベンダーの買収も可能性としては考えられる。少なくとも、エンタプライズでの知名度や実績を持っているベンダーとのパートナーシップは現実的な解として考えられるのでは、と思うところである。
問題は、Amazonは誰と組んだらベストなのか? という点。