2010年11月12日金曜日

クラウドの定義を改めて評価: Cloud In A Boxの問題:標準化がなぜ出来ないのか、等


本記事は、Marc Benioff氏以下、Salesforce.com関係者が名を連ねている、CloudBlogと呼ばれるブログでJohn Taschek氏の書いた記事の要約+個人的な分析;
HMS Beagle
先日発表されたOracle社の"Cloud In A Box"ソリューションに対して、様々な意見が飛び交っている。

全体的に反論する意見が多いように見受けるが、その代表的なコメントとして、Beagle Research GroupというCRMを中心としたコンサルティングを行う調査会社のCEOである Denis Pombriant氏の意見が興味深い。

"The idea of cloud in a box, private clouds and public clouds is completely contrary and it devalues cloud computing to the point of nothing." - Denis Pombriant

「クラウドを箱に入れよう、という発想自体がそもそもプライベートクラウド、パブリッククラウドの議論と合わせて矛盾をさらに深めるもので、既にクラウドコンピューティングの定義自体がなくなってしまっている。」


という大変鋭い意見である。

CloudBlog関係者がDenis Pombriant氏とインタビューを行い、さらに"Cloud In A Box"に関する意見についてヒアリングした。

インタビューの中でいろいろと述べているのでそれ自体読み応えがあるが、最も重要なポイントは、クラウドを複数形で使う、という現状に対する懸念である。

つまり、Oracleが提案するようにクラウドを「箱」に入れる、という事が問題なのではなく、そうする事によって複数のクラウドをどんどん作ってしまう、というビジネスモデルが、結局従来のProprietaryなITビジネスモデルと何ら変わらないのでは、という意見である。

本人の言葉をそのまま転載すると、
The answer is that the multiple flavors of cloud computing aren't fundamentally different and are really no more than the extension of an old paradigm, not a new one.
という事である。

この意見については、小生も強く共感をするもので、今後のクラウドコンピューティングのビジネスモデル、技術的な方向性を決める上でよくよく考えておかなければいけない課題である、と感じる。

まず、Oracleの取った戦略については、2年前にIBMが発表した、IBM Websphere CloudBurstと呼ばれるアプライアンス製品に非常に似ている。両社とも今やハードウェアベンダーである、という共通点がある、という意味では同じような戦略をとる事にさして大きな問題は無いが、IBMのこの製品はほとんど売れておらず、製品戦略としては失敗作である、という評価を受けている。

数年前から、複数のクラウドが存在する状況を見て、それを共通化する必要がある、という動きがある、NIST、Open Group、DMTF、CCIF、CSA、ETSI、OMG、SNIA、Open Cloud Consortium、OASIS、等、公共機関、ベンダーコンソーシアム等、多数の団体が動いている状況であるが、正直のところ、実際にそれが採用されるためには、いくつかの条件がある。

まず、業界に存在するすべてのクラウドベンダーがそれに同意し、投資をかけてその共通仕様を実現するための開発を行う必要がある。さらに、その先のシステムインテグレータ、アプリケーション開発ベンダー、エンドユーザもこの共通仕様に賛同し、実際に採用をするために投資する必要がある。

そこまで労力をかけてまで共通化する必要性が果たしてあるのか、という答えがあまり明確でない状況の中、業界全体を巻き込んだ標準化の動き、本当に一枚岩になって動く事が出来るのか、今ひとつピンとこないのである。ましてや、それをするための時間、本当に各社そんなに余裕があるのか、むしろそちらの方に課題があるのでは、と思われる。

なぜ標準化が難しくなってきているか、少し分析する必要がある。

その理由は、時代が一部のベンダーがOSレベルで事実上の標準規格を行っていたメインフレーム、UNIX、PCネットワークの世界から、複数のベンダーが事実上の独自仕様を維持しながら強調をする事によって構成されるインターネット、モバイルネットワークの時代に移り変わり、従来の「標準化」というものの意味、そしてその価値、ましてやそれを実際に市場に投入し、採用してもらうための時間とエネルギーは昔と全く事情が変わってしまっているのでは、と考えられる。少なくとも現在各団体が行っているクラウド仕様の共通化のスピードは業界の動きに全く追いついていない、というのが小生の正直な実感である。

IT業界を構成するプレイヤーが多くなっている事と、技術イノベーションのスピードが早くなった、という2点である。

Denis Pombriant氏が指摘するのは、Oracleのこの"Cloud In A Box"コンセプトがこの2点を阻止する動きの代表である、と暗に指摘している。

Oracleの客からすれば、マルチベンダー環境で揺れ動いているクラウドインフラ上に由々しくも自社のMission Critical資産をのせる位ならOracle一社で統一された、安定しているプラットホームを採用したい、という気持ちがある、と言える。それはそれで全くもって同意できる。ハード一台だけで$100万ドル払う余裕があれば、だが。

2010年11月10日水曜日

Lotus Notesがクラウド化、Microsoft Azure・Sharepointと対向:Ray Ozzieという共通の開発者

Lotus Notesがクラウド化した、というニュースがしばらく前に入ってきた。

元々、Lotus Notesは、今はMicrosoftのChief Software Architectの役職を去ったRay Ozzie氏が元々開発した製品である。Lotusを買収したIBMがよもや自分の開発した製品をクラウド化した事をMicrosoftをクラウド化する責任者の立場から見てどのように感じたのであろうか?

せっかくなので、Lotus Notesの簡単な歴史について調査をしてみた。
  • 1973年にDavid Wooley氏がPLATO Notesと呼ばれるオンラインメッセージボード機能をもつソフトを開発し、その時にRay Ozzie氏はUniversity of Illinois在学中にその開発を支援した。
  • この当時、Ray Ozzie氏はLotus Development Corporationという会社の創始者であるMitch Kaporと親交があり、同氏の協力を得てIris Associatesという会社の設立を行う。
  • 1984年に設立したこの会社は、PCの機能を上記のPLATO Notesの機能を統合した製品の開発を行い、Ray Ozzie氏がその開発責任者となり、Lotus Coporationが販売、マーケティングを行っていた。
  • 1994年、Lotus社はその当時の最新バーション、Notes R3がリリースされるタイミングにおいて、Iris社を買収する。またその一年後の1995年に、IBMがLotus社を買収している。

その後、OzzieはIBMを去り、Groove社を設立している。その後、GrooveはMicrosoft社が買収し、後のSharePointの開発母体となる。OzzieのMicrosoft在籍時は、William Gates氏にChief Software Architectとして任命され、Microsoftのクラウド戦略である、Azureの立ち上げに大きく寄与している。

Ray Ozzie氏はこう見ると、IT業界における、企業向けクラウドソーシャライゼーションのコンセプトを打ち出し、それを複数の製品として世に送り出している、という意味では非常に業界に貢献している、ということが出来る。
Microsoftとしては大きなロスであろうし、今後Ray Ozzie氏がどのような動きを見せるか、についても非常に興味深いところである。また新たなエンタプライズソーシャル向けのソリューションの構想を練っているのでは、と期待されるところである。

ところで、Microsoftが推進する、AzureをベースとしたSharePoint、IBMが推進するLotus Notesのクラウド版(LotusLive Notes)以外にも、下記のような会社がエンタプライズソーシャル製品として市場に登場している。
  • Yammer:企業内マイクロブログ、ファイル管理、メッセージング、等、一通りのコラボツールがemailの登録だけで簡単にできる、というSaaSソリューション
  • StatusNet :企業内のマイクロブログやメッセージングを提供する。SaaS型のサービスと、On-Premise型のライセンス事業の2つをサポートしている。
  • Sociacast:上記同様にマイクロブログ、メッセージを提供する。SaaS/On-Premiseの両方をサポートし、Outlook, SharePoint等、オフィスソフトとの連携が強化されている。
  • Socialtext:企業内SNS、マイクロブログ、Wiki、モバイル連携等広い範囲をサポート。アプライアンスでの提供もある点が特徴
  • Jive Software:導入コンサルも含めて、企業に対するソーシャルネットワーキングによる効率向上を実現する事を強調している。上記企業と比較してかなり規模が大きくなっている。

2010年11月9日火曜日

北米の文教市場における、クラウド事業の競争激化:GoogleとMicrosoftの戦い

Googleが自社のクラウドソリューションである、Google Appsを文教市場に強く売り込んでいる、という情報。

先日の発表によると、Googleは既にOregon州, Iowa州, Colorado州さらにMaryland州加え、New York州に自社のGoogle Apps for Educationという製品を州全対のK-12(幼稚園から高校)の学校に一斉導入した事を明らかにしている。 

New York州だけでも、697カ所の学区があり、合計310万人の生徒、数十万人の先生を抱える大きな顧客である。これら全員にGoogle Appsが提供される、という内容の発表が先週行われている。 

ブログでの発表はここ

発表のタイミングも巧妙で、Microsoft社が発表した、米国各地の大学におけるLive@eduと呼ばれる、同社のクラウド製品の導入した記事を追っての発表である。Microsoftの導入した大学は、San Francisco State University, CSU Long Beach, University of Montana, and Washington University (St. Louis)等である。

文教関係における、オフィス関連製品のクラウド化というのは、そのメリットが認識されていく中、MicrosoftとGoogleの激しい市場獲得争いが展開されていく状況は今後も注目に値する。文教市場に自社製品技術を広く導入する事によって、結果的にビジネス業界に生徒が移っていく際に選択する技術に大きく寄与する、という事も戦略の大きな核として考えられている。

以前Appleが自社PC技術を文教関係に多く導入し、その市場を守っていったという歴史もある。
今度はクラウド市場でも同じ戦略が展開される事になるが、初期投資の少ないサービス事業であるため、かなり厳しい強壮になる事が想定される。

2010年11月3日水曜日

AWSの無償インスタンス提供の先にある戦略とは

先週は、Amazon Web Servicesが新たな価格帯をEC2に対して提供を開始した。 

無償インスタンスの提供である。 

ただし、期間が一年と限定されている事と、インスタンスのサイズも限定されている、といういわば期間限定、お試しバージョンのサービスの登場である。

俗にFreemium、と呼ばれるビジネス戦略はクラウドのビジネス、Web2.0の市場においてはごく当たり前に提供されるもので、AWSは、既にSimpleDB, Simple Queueing Service (SQS), Simple Notification Service (SNS)の3つのサービスに対しては無償のサービスを提供する中、今度は中核のサービスであるEC2も無償で提供する事になった。 

多くの記事がこの無償のサービスの登場について分析を行う中、主としてその分析はユーザーの急激な増大に対する期待に集まっているが、いくつかの記事はその先の一年後、この無償サービスの期限が来た時にどうなるのかについては議論している。

下記のような予測があげられている。

  1. クラウドの導入は、企業に取ってのIT資産の容量管理(Capacity Planning)の考え方に大きな影響を与えている。従来、システム運用のピーク時に照準をおいたシステム容量を基本的に行っていた考え方が、システムの負荷が最も低い状態に主軸を置いてシステム容量設計を行う考え方に変わりつつある。
  2. その一つとしてあげられるのが、逆転の発想である。通常のシステム運用をクラウド上で行い、そのシステム構成は、最低限を負荷に対応できる規模に押さえておく。その代わり、システムに対する負荷が増大した時にOn-Premiseにおいてそのサービス要求をすべて受ける構造を持つ方式である。
  3. この方法論と、上記のAWSの無償サービスを組み合わせると、通常のシステム運用を事実上タダで動かす事が可能になる。負荷増大が起きた時だけ、必要な分のIT投資を行う事によってシステム運用コストを最適化する事が可能になる。

AWSの提供するこの無償サービスは、単にAWSの新規ユーザを開拓する事だけではなく、システム運用の新たなコンセプトを実際に実現できる環境を提供できる、という点で大きく評価をしてるアナリストが登場している。


同じ分析記事に置いて、さらにAWSの内部におけるメリットもいくつかあげられている
  1. 一度システムの小さなインスタンスをAWSに作り上げると、ユーザはそこから出て行くインセンティブがほとんどなくなる。通常はタダでシステム運用を行い、いざトラフィックが増大した時だけ費用を支払うという仕組みが出来上がるため、AWSとしては無償サービスで入ってきた顧客はほぼ永久的にユーザであり続ける事が期待できる。
  2. 顧客あたりのインスタンスが小さければ、総合的にAWSの運用するデータセンタ環境のUtilizationが向上することになる。大きなインスタンスを数個保有するより、小さなインスタンスを大量に保有する方が、技術的にデータセンタの利用率が向上する事が期待される。 大きなインスタンスを契約している企業がある時点で契約解除した時にその違いが顕著に現れる。 小さなインスタンスは入れ替えが激しいかもしれないが、ある程度一定の顧客層と利用率を保証できるからである。 さながらテトリスのゲームのようである、というたとえもある。
  3. 基本的にIaaS事業は、長期契約があまり存在しないため、上記のように小さなインスタンスを重視した経営方法というのは非常に需要な意味をもつ。この辺の戦略、従来のSI事業としては従来の発想から切り替えるのに苦労する事が多いに想定される。 

結論として、AWSのコンセプトは次のような捉え方をする事が可能である。
  1. 長期的な契約を欲するユーザのためのサービス = Reserved Instances
  2. 短期、小規模のインスタンスを要求するユーザ層 = 今回発表された無償バージョン
  3. それでも余剰の空間をオークションを通して更なるユーザ要件で埋め、極限までデータセンタの利用率を向上させる = Spot Instances

クラウドコンピューティングは技術論ではなく、ビジネス論である、と今や多くのアナリストは論じており、今回の発表とそれに同期した分析を集約すると、さらにこのコンセプトが進化して、経済論になりつつある、と感じている状況である。 英語で言うと、"Cloud Economics"という言葉でよく表現される。

日本のクラウドコンピューティングも、そろそろ技術論から脱して、一挙に経済論、それも日本のIT市場に合った形での経済論が必要になっている、と強く感じている。

2010年10月29日金曜日

クラウドは本当にセキュリティ面で心配なのか? 従来のOn-Premiseと比較してそんなに心配なのか?統計による分析

クラウドの大きな問題はセキュリティが無い事である、という意見が多く登場している。
インターネットが登場した時もそうであったし、その昔はPCが登場し、分散コンピューティングが広がっていった時も同じ様な懸念が登場したが、いつの間にかそういう議論があまり語られなくなり普及していった、という歴史がある。

楽観的な意見が持つ人たちの間では、クラウドコンピューティングも同じパターンでセキュリティに対する懸念がいつの間にか消えてなくなる、と思う人が多い様である。

US Department of Health and Human Services (HHS)と呼ばれる政府の機関が発行した昨年の医療業界におけるネットワークに対する攻撃の内、情報漏洩等の実被害者が500人以上に及ぶ事件の件数が166件で、合計4,905,768人の患者が英鏡を受けている、という内容が報告されている。 

このレポートを受けて、PHIPrivacy.netが興味深い分析を行っていて、医療業界の様なセキュリティ要求の高い、規制の厳しい業界においてもローカルに管理されるデータはかなりの頻度で盗まれている、という状況を説明している。

このレポートが主張しているのは、上記の医療業界での状況と比較して、Salesforce.comMicrosoft BPOSAmazonGoogle AppsQuest OnDemandのようなパブリッククラウドサービスの業界で年間に166回もの事件が起きるのだろうか? という事である。

パブリッククラウドで問題が多発しないのは、次の様ないくつかの理由がある、と説明されている。

・  データセンタのセキュリティの基準がそもそも高い事:  大抵のデータセンタは、SAS 70 Type I もしくは Type II というセキュリティ規格、さらに ISO/IEC 27001:2005 と言った規格に準拠した運営を行っているからである。企業内のデータセンタはそこまで投資を行う事は実際に少ないのが現実である。
・  業務の明確な分離:  データセンタ事業者はそのテナントの従業員では無いので、何所にどのように貴重なデータが補完されているのかを知る事が基本的にできない。
・  パブリッククラウドは複数のテナントを抱えているため、万が一、ハードディスクごと盗む事に成功したとしても、そのディスクの中は様々な顧客の情報の断片が、ある特殊なアプリケーションのフォーマットで記録されて、データを解析するのはほぼ不可能である。
・  企業の従業員の持つラップトップやモバイルデバイスは、クラウド化される場合、デバイス内にデータを殆ど補完しないモデルが採用される。 デバイスが盗まれても、データが盗まれる事がない。 
・  どのパブリッククラウド事業者のサイトをみても、セキュリティを最大の要件としてる。データの隔離、ログ管理、アクセス管理、等セキュリティを重視するが故にかなりの施策が施されている。

企業の中におけるデータセンタは、社内内部の人間が使う事が基本になっているため、セキュリティの強化とは言っても、基本的に社内規則に準拠している人間が利用する事を前提としたセキュリティになっているのが通常である。 事業としての判断で必要以上のセキュリティに対する投資は必要ない、と考えるのも通常である、と言える。  このような環境において、企業は何故企業内のデータセンタが安全だ、と主張出来るかというと、基本的に社内ユーザは信用出来る、という安心感があるからだ、と言える。  社外の人間がアクセスするとなると、急にセキュリティが厳しくなるのはそのためである。 

一見、パブリッククラウドは不特定多数の人間がアクセスしている環境の様に思えるが、実は個々の利用契約に基づいてサービスを利用している特定の利用者の集まりである。 個々のユーザは論理的に特定のコンピューティングスペースを専有し、データ、アプリケーションの管理をクラウド上で行っているが、このクラウドを運用する会社が採用するセキュリティは、複数の企業が入り込んでコンピューティングリソースを利用する環境に必要十分なセキュリティを採用している訳であり、結果的に企業内のデータセンタと比較して格段に厳しいセキュリティは基準が採用される必要があり、そのように運用しているのが現状である。 

パブリッククラウド上の各テナント間の論理的な境界線に問題がある、というのなら、それは少し別な問題である。それは通常仮想化領域で管理されるパーティションの議論であって、その技術的な限界や、セキュリティの懸念を議論するのであれば、それは仮想化という技術自体を問題視する事であり、パブリッククラウドの問題とは別次元で議論されるべきである。  これをパブリッククラウドのセキュリティの問題と混同してしまうと、的の外れた結論に達する危険性があると思う。

2010年10月27日水曜日

MicrosoftからRay Ozzie氏が離れるまでの経緯: 批判的な分析の代表例

Ray Ozzie's leaving Microsoft: What took him so long?
Microsoftに関する記事、特にChief Software Architectという肩書きをもった、いわゆるMicrosoft社の技術陣の最高峰に位置付けられていたRay Ozzie氏が同社を離れた事に対する分析記事が
多く登場している。
 
基本的にはこういう記事は個人的な主観が混ざってしまう傾向が高いため、あまりブログに取り上げない様にしているが、今回の事象に関しては、クラウド市場というものがどういうものなのかを理解する上で興味深い、と感じており、いくつかの記事で登場したコメントについて分析してみたいと思う。

まずは、Ray Ozzie氏のMicrosoftに対するクラウド時代への変換の必要性を訴えた、"The Internet Services Disruption." と呼ばれる社員全員に向けたメッセージが同氏のMicrosoftに対する意気込みを示す最もも有効なものとして見る事が出来る。これは、RayがBill Gatesに誘われてMicrosoftに入社した2005年の3年後の2008年の10月に社員全員に送られたメールである。従来のクライアントサーバーベースのソフトウェアライセンス事業のモデルから、クラウド型のサービス事業への変化が必要である、という事を切々と説明している内容である。  改めて読み返すにあたり、よくコンセプトがまとめられている事に感心すると同時に、Microsoft社が結果的にそれを十分に吸収する事ができなかった、という印象を受けざるを得ない。 

関係者、特にMicrosoftに近い人間の意見によると、この時点で既にRayはMicrosoftにおける自分の出来る事の限界を感じ始めていたのでは、という人もいる。 

Ray Ozzie氏は、元々はLotus Notesという製品を開発した人間である。クライアントPCとサーバーとの間のデータやプロセスの同期を保証する機能が非常に優れていて、そのコンセプトは非常に評価される一方、実ビジネスにおいては必ずしもそのコンセプトが活かされてはいなかった、と言われている。最終的にはIBMに買収され、同社のITソリューション事業の一部に組み込まれている。

後に、Ray Ozzie氏は、Groove社という会社を起こしており、これが2005年にMicrosoftに買収されている。 Grooveは当初はMicrosoft Officeの一機能として統合され、後に SharePoint Services の機能に組み込まれている。 SharePointの今日の姿はOfficeと並び、企業向けの情報管理ソリューションとして販売されているが、必ずしも主力製品としての地位は獲得しているとは言えない。

Ray Ozzieが上記のクラウドサービスのコンセプトを説明したメッセージを社内に発信したのはこの後である。 このメッセージを最も具現化したのは、Microsoftのクラウド戦略である、Azureである。 2008年のPDCにおいては、Ray本人がAzureの事を、「独自のAPIを持つ、クラウドベースのOS」、と定義している。 この約一年後の2009年の12月、Microsoft社は大幅なレイオフを含めた組織改正を行い、Azureの開発はRayから別部門に移行し、当初のコンセプトとは程遠い姿で出荷されている。

あまり知られていないが、Rayが取りまとめたもう一つの製品があり、Live Meshと呼ばれている。 この製品は、クラウド上のアプリケーションやデータの統合を行う先進的な機能を有していたが、最終的にはWindows Live Syncという製品として市場に投入されたが、機能がかなり削られている結果となった。

もうひとつの製品は、Live Labsと呼ばれる。 Rayが密かに温めていた戦略的な製品で、2006年に発表されて以来、Googleに対向し得るインターネットアプリケーションのRADツールとして評価された。  発表の2週間後、Live Labsのチームは解散し、Bingグループに統合され、Live Labsの開発は責任者は退社している。

一年後、RayはFuture Social Experiences (Fuse) Labsと呼ばれるアプリケーションやサービスの開発、運用プラットホームをプロジェクトとして発足している。 このプロジェクトは最終的に、Facebookのアプリであるdocs.comという名で発表されている。  

このように、Ray Ozzie氏のMicrosoftでのキャリアはかなり山あり谷ありであった状況が見えてくる。

Ray OzzieとCEOであるSteve Ballmer氏両人がパネルディスカッションに登場するイベントが恐らくRayのMicrosoftにおける心境を最もよく表しているのではないか、と思う。
今年の6月に開催された、D8 conferenceと呼ばれるコンファレンスでの事であるが、いつもの強気なイメージのSteve Ballmerとは対象的に、Ray Ozzie氏が非常に大人しく、もの静かに質問に対して回答をしている姿が非常に印象的である。 パネルディスカッション中に度々指摘されているが、両者のクラウドコンピューティングに対する考え方の違いがかなり如実に現れており、何とも妙な不安感を感じざるを得ない。Ray氏のクラウドに対する理解が非常に的確であるのに対して、Steve氏のクラウドコンセプトはあくまでも既存のPC、サーバインフラを補完するものとして位置付けている、という点、明らかにその違いを感じ取る事が出来る。
 

クラウドコンピューティングのコンセプトは、単なる技術ではなく、ビジネスのやり方、ITの取り組み方を大きく換えるパラダイムシフトである、という事はよく議論されているが、具体的にどういう変化なのかはまだよく見えていない、と言われる。 

上記のMicrosoftにおける、今日の収益を大きく支えるレガシーのビジネスモデルと、新しい時代のクラウドビジネスモデルとの間の違いは、結果的に大きな溝として浮き上がり、最終的にRay Ozzieの退社、という結果を生む事になった、と言える。 つまり、Microsoftの方向性は、既存のレガシー事業を守る形で、クラウドを補完技術として採用する、という事である。  

Azureの未来も、これで大きく当初のコンセプトから離れ、Microsoftの資産である、.NETを継承する独自のクラウドインフラになる事が想像される。一種のプライベートクラウド化、というところだろうか。 これはデスクトップ市場を継続的にWindowsで独占し続ける事ができれば現実解として可能性はあるが、クラウドがますます浸透する今日、果たして企業は自社のアプリケーションやデータの資産を特定ののOS上で管理する必要性を感じるのだろうか、Microsoftの選んだ戦略に対しては、大きな疑問が残る。 


2010年10月26日火曜日

FacebookとZyngaの関係: パートナーでもあり、敵でもある。

Facebookは世界最大にソーシャルネットワーキングサイトである、という面を持っている一方、最近話題になっているのは、毎月2億人以上の人間が参加するオンラインゲームアーケードの運用サイト、という面である。

San Francisco市に本社を置くZynga社は、FarmvilleやMafia Warsといった、Facebook向けのゲームを開発する最大のベンダーである。 急成長を遂げた現在、自社のグッズの販売により年商$5億ドルを出す勢いである。通常ゲームは無償に提供されるが、ゲームの進行を早める(先のステージに進める、等)ためには、有償のグッズを購入する必要がでてくる。

Facebook社は、早くからこの動向に目をつけ、次の様な施策をとっている。
1) 今年のはじめ、Zyngaをはじめとしたアプリケーションベンダーに対して、自由にユーザに対するのNotificationを発信する事を禁じた。ユーザにとって、膨大な量のゲーム系の宣伝広告が減ったと評価されたが、さらにFacebookにとっては、ゲーム系のベンダーが宣伝の為にFacebookの広告スペースを購入する傾向を高める結果になり、集積増にもつながった。
2) Facebook Creditsという同社の独自通貨を自社パートナーに対して使用する事を要求した。Zynga社も反論をしていたが、結果的に両社の間に5年間の契約を締結する事となった。

表向きにはパートナー関係にある、と見られているプラットホームベンダーとその上のアプリケーションベンダー、表向きにはゲームベンダーが脚光を浴びている様にも見えながらも、プラットホームベンダーがかなりビジネス面でのコントロールをしている、という現実が垣間見える。  

しかしながら、これはFacebookに始まった事ではなく、Amazon、Google、さらにMicrosoftが行っているビジネスと同じである、という事が出来る。 プラットホーム事業の最大のメリットは、そのプラットホーム上のアクセスをMonetize、つまりお金に換える事が出来る、という特権を持っている、という点である。

Digital Realty Trustが提供するコロケーションスペース: そのテナント状況を分析、意外な事実を発見

Digital Realty Trust社の2009年度の10-Kレポートをみると、テナントのリストと、各社がリースしているデータセンタースペースとそれぞれの価格を知る事が出来る。

image

上記がトップ20社のリストである。 

下記の点が分析される。

1) 上位3社、Savvis、Equinix、Qwestは、DRT社のデータセンタスペースの販社であり、DRT社のリースしているデータセンタスペース全体24.8%の面積をリースし、収益の18.9%に寄与している。

2) JPMorgan Chase、Morgan Stanley、HSBCの金融3社は、総面積の2.8%を占め、売上げの7.1%に寄与している。売上への貢献度が高いのは、リースしている物件が都市部に集中しているため、と想定される。

3) Googleはトップ20社には含まれていないが、Microsoft、Yahoo、Facebookはそれぞれ数パーセントと程度の状況である。 Facebookのリース料は全体の4位であるのに対して、リースしている面積が1.1%と比較的少ないのが特徴的である。恐らくかなり集約度の高いデータセンタを採用している、と想定されており、各テナントの状況を単ににリースしている面積だけで評価するのは誤解を産む可能性がある、と考えられる。

これらの数字の重要な事は、データセンタスペースの用途によって、様々な価格帯の選択があるという事である。また、業界によって、リースするデータセンタスペースの面積あたりの単価が比較的近い、という事も言える。 

モバイルとクラウドが2015年までにIT市場を独占: 最も大きな課題は稼動率にあり、と断言される理由

IBMは、Tech Trends Surveyと呼ばれる、同社のIBM developersWorksというグループが行った87ヶ国、2000人を対象としたオンラインサーベイを行っている。目的は、IT市場の今後の動向を見極めるための調査、と位置付けられている。 

IBM Survey: IT Professionals Predict Mobile and Cloud Technologies Will Dominate Enterprise Computing By 2015
調査によると、回答したIT プロフェッショナルの半数以上、55%が、iPhoneやAndroidをはじめ、iPadやPlaybookといったタブレットデバイスといったモバイルソフトウェアプラットホームが従来のアプリケーション開発の規模を超える、と予測している、という結果が明らかになった。

これは、アプリケーション開発環境が、Agileで、競合の激しい市場に変化する、という事も予測されている。上記の表によると、"Not Sure(よく分からない)"と回答しているのがわずか18%であり、そういう面でもかなりモバイルソフトウェア開発環境が広がっていく、という認識が確かなものである、という事が伺える。

モバイル環境の開発環境の大きな特徴は、常にサービスと接続出来るインフラを維持する事にある。 

Foursquare、と呼ばれるソーシャルネットワークサービスが、先週の月曜日に不明の技術的な問題により11時間の間停止していた、という事が報道されている。 また、最大手のFacebookでさえも2.5時間の停止、という過去4年間で最も長い障害を経験している。

これらの障害は、モバイルアプリケーションにとっては従来のPCベースのネットワークモデルと比較しても深刻な問題として捉えられる。 モバイルデバイスは常に接続している事がベースとなっているので、アプリケーションとしては、こういった障害時の対策をどの様にとるか、によって大きく差がでてくる、という予測が出来る。

不安定なネットワークインフラであるだけに、障害時の対策を考慮したアプリケーション開発戦略を練る事が重要になってくる、という事である。

調査レポートのサイトであるはここ

2010年10月8日金曜日

MicrosoftがAdobeを買収するかもしれない、という噂: その目的には共通の敵の存在

New York Times発、GigaOm経由で登場した記事であるが、Microsoft CEO の Steve Ballmer氏がAdobe CEO のShantanu Narayen氏と会い、秘かに合併の可能性について議論をした、との噂が業界での飛び交っている。

一体どういう事になったらこういう噂になるのかがなかなか理解できないが、両社はこのような話題があった事を否定している。 

ただ、噂の根源は、過去に同様の議論があった経緯がある事、その際には独占禁止法に抵触する恐れがあったために断念をした、という結果になった、という事である。

今回はその恐れがないのか、この噂が発信されてからというもの、Adobeの株価が11.5%、と急上昇している。 

両社は異なるビジネスモデルを進める会社同士ではあるが、競合する製品技術もいくつかある。 その代表は、MicrosoftのSilverlightとAdobeのFlashである。 また、AdobeのAcrobat・PDF仕様に対向する規格を計画している、という情報もある。  

ただそれよりも大きいのは、両社が共通に抱える敵、Apple社である。  
両社が行った会談の中心は、Appleに対してどの様に対向すべきか、という点だっただろう、という予測は多い。 Apple社がFlashを頑なに採用しない事、iOSがMicrosoftのWindows Phone OSの市場をドンドン攻め込んでいる、という状況は、両社にとって事業収益に大きく影響を及ぼす問題である。 

Appleの層資産額がMicrosoftを超えてしまった以上、もう過去の悩みであった独占禁止法にに触れるという悩みはなくなっている事は確か。

ちなみに、Microsoftの現在保有しているキャッシュは約$360億ドル。 一方、Adobeの現在のマーケットキャップは約 $150億ドルとされているため、決して安い買い物ではない、と言える。

Appleに対向するためにMicrosoftがAdobeを買収するかもしれない、という噂がでてくる事自体、数年前では全く想像もつかなかった事態であるが、インターネットの時代からクラウドの時代、PCの時代からスマートフォンの時代と、移行のスピードの早さには驚くばかりである。

2010年10月7日木曜日

北米でのManaged Hosting Providersの株価が好調: クラウド事業のモデルが評価

北米でのManaged Hosting Providersの3Q/2010の株価が好調である。  

Managed Hosting Providersという業種は、主として企業のIT資産(ハードウェア、ネットワークも含む)を自社のデータセンターで管理し、IT全体の運用、管理をサービスとして提供するビジネスである。コロケーション事業と異なり、ネットワーク、さらにOS、仮想化レイヤー、基幹業務アプリケーションも含めた資産の管理運用を行う事がポイント。

MHP業界で最も株価の伸びを見せたのは、Savvis Communications社(SVVS)、Rackspace Hosting社(RAX)である。  両社共に3Qの期間で40%の株価の伸び、という驚くべき数字を出している。これを追って、Terremark Worldwide社(TRMK)の32%、Navisite社(NAVI)の27%、と総じて25%以上の伸びを見せている。

MHPという、ある意味では非常に地味なIT運用事業が何故ここまで投資家に人気があるのか? 

企業がIT資産のセキュリティやコンプライアンスに大きな関心を寄せる中、長年その2点に関する投資を行ってきたMHP事業社に対して、企業が改めて積極的なアウトソースを活発化させている、というのが現状のようである。 合わせて、クラウドコンピューティングサービスも同様のセキュリティレベルで提供できる、というビジネスモデルが大きく評価されている、と考えられる。 

最近の動きとして注目されるのは、CoreSite Realty社(COR)というデータセンター専門のREIT事業社がIPOした、という事である。 同業の公開企業である、Digital Realty Trust社(DLR)とDuPont Fabros(DFT)社と並んで、REIT事業社は3社目になる。 

下記が、Data Center Knowledge社がまとめた、3Q/2010の関連企業の株価動向である。
この時期のDow Jones の平均株価は8%上昇、NASDAQ市場は12%の上昇を見せているので、MHPベンダーは全体的にかなり顕著な伸びを示している、という事が言える。

各社の伸びを、2010の頭からの比較を示しているのが次の表である。 
CDNの大手、Akamai社を筆頭に、MHPベンダーは、50%以上の伸びを示しているので、MHP業界の成長は、3Q/2010に限らず、長期的な視野でも伸びを示しており、今後の成長も期待出来る、と考えられる。

日本では長年、SI事業社が企業向けのIT資産を構築、運用する文化が育ってきている。 特にに基幹業務になると、SI事業社が中心になって企業向けの上流コンサルティングを始め、システム構築、運用、等の業務を提供し、北米でのMHPにかなり近い内容のサービスを顧客に提供している、と解釈する事が出来る。 

MHPの大きなポイントは、データセンターを運用し、顧客のIT資産をそこで運用する事に特化したサービスを提供している事である。広大な土地のあるアメリカでアウトソース事業が育ち、逆に土地の非常に少ない日本(特に東京)ではオンサイトのIT資産運用が中心になっている、というのは、考えてもみれば非常に不思議な状況である。

その鍵は、MHPベンダーがかなり早い段階からセキュリティやコンプライアンスを意識した運用サービスを提供できるインフラを構築し、顧客企業に対してそのメリットを明確に示してきた、という事にある、と分析出来る。  要するに、経済的なメリットは当然ながらも、さらに顧客との間に信頼関係があるからこそ、アプリケーションも含めたIT資産のアウトソース出来る、という事ではないか、と考えられる。

このように顧客との信頼関係を非常に重要視するビジネスモデルが、クラウドコンピューティングビジネスを始める、というのは考えようによっては非常に魅力的なサービスになりうる。クラウドコンピューティングの問題とされている、プライバシー、セキュリティへの懸念がこういった信用関係をとおして払拭出来る可能性があるためである。  

現に、Rackspace Hosting社は、クラウドコンピューティング市場においてはAmazon Web Serviceと並ぶ規模に成長しており、明らかにAWSと異なる顧客層を確保している。 

このモデルは、セキュリティやプライバシーの確保を重視し、尚且つ顧客との信頼関係を重視する日本企業にとっては非常に参考になるビジネスモデルであり、日本ではクラウドコンピューティング事業を伸ばす大きな要因になる可能性が高い、と思うところである。 

2010年10月6日水曜日

VC業界が元気を取り戻す理由

最近のVC活動が活発になってきている、という話題。

要因は、M&AやIPOの案件が増えてきている、という事のようである。 NVCA(National Venture Capital Association)という呼ばれる団体の報告によると、104件のM&A、さらに14件ものIPOが2010年の3Qの間に起きた、との事で、今後もこの傾向は続く、と予測している。

たしかに、最近の案件では、3PARBlade Technologies等の買収など、戦略的な要素の高い案件が多く登場している。M&A案件が全部の内、金額を公開しているのは27社であるが、その合計は 約$38.4億ドル、さらに感心するのは、14件のIPOは合計 $12.5億ドル、一社平均 $8920万ドル、という金額である。  


下記がさらにこのレポートが報告している。内容である。

・  14件のIPOの内、IT業界での案件は8件であり、合計 $7.5億ドルになる。最大の案件は、GreenDot Corp. のIPOで、総額$1.64億ドルにのぼる。

・  M&A案件全104件の内、ITセクターの案件は82件、合計金額は $10億ドルにのぼる。

・  インターネット、コンピュータソフトウエアが一番比重が大きい技術を分野であり、各々32件、33件。

・  買収金額が公開されている27件のM&A案件の内、5件は元の投資額の10倍以上の買収額、4件が投資額の4倍、7件は投資額を下回る投資額となった。

2004〜2007年の頃のM&Aの勢いにはまだ達していないが、2008〜2009年の急激な落ち込みの頃と比べたらかなり回復している、という事ができる。

この傾向を押している要因として、昨今のクラウドコンピューティングの成長が大きく注目される。各社のクラウド戦略が激しくなる状況を中、大手IT企業、Oracle、Google、VMWare、HP、Dell等が競って買収厚生をかけている状況はよく見えてきている。逆にクラウド戦略をなんらかの形で持っていなければ買収の対象になり得ない、と思えるくらいである。

2010年10月2日土曜日

AWS初のクラウド事業投資、ストレージアプライアンス企業:Cirtas => その裏にある戦略とは

Cirtas社は、San Jose市に本社を置くストレージ事業者である。

今回発表した新製品は BlueJet Cloud Storage Controller と呼ばれる、エンタプライズ市場向けのクラウドストレージアプライアンス製品。  

もう一つ、同時に発表したのは、同社がNEA、Lightspeed Venture Partners、Amazonの3社から合計 $1000万ドルの投資を受けた、という事である。最も興味深いのはAmazonにとって、クラウドベンダーに投資した初めての案件である、という事。

さて、製品の方であるが、Bluejet Cloud Storage Controller はエンタプライズが現在抱えているパブリック、プライベート、ハイブリッドの3つのインフラの統合という問題を解決するためのストレージ製品として位置づけられており、競争の激しい市場にまた一社加わる事になる。 

Cirtas社の製品の最も大きな特長は、複数クラウドを常に監視し、データ転送速度、セキュリティ、許容量、等を比較した上で最適なクラウドストレージプラットホームを選択、データを動的に移動させる機能を自動化している。この最適化のために、製品はアプライアンス内部でクラウド間のデータを移動させるためのストレージアレイと、各クラウドの状況を監視するダッシュボードを装備している。 (下記の図はダッシュボードの画面)

cirtas

エンタプライズにおいては、ローカルストレージを運用管理するのと同じ様にクラウドストレージも使いたい、というニーズがある事に着目し、製品はデザインを行っている。 アプライアンスの内部構造的なとして、RAM、SSD、HDDストレージもアレイを多重化装備し、さらにクラウドと直接接続するためのゲートウェイ、さらにWAN最適化の機能をサポートしている。


下記が製品のアーキテクチャ図である。

cirtas


さて、もう一つの関心は、何故こんな会社にAmazonが投資をしたのか、という事である。 自社でVirtual Private Cloudサービスも提供、エンタプライズ向けのソリューションを強化している中、敢えてこういう会社に投資をする理由として次のような事が分析される。


1) VPCを適用するにしても、クラウドのストレージを管理する機能は社内のIT部門の管理下に置きたい。 そのため、何ら家の形でのアプリアンスが必要であり、Amazonとしてはそれを推奨するソリューションが必要になってきた。この辺の市場がどの様に成長するかはAmazonにとってまだ不確定な市場なので、買収ではなく、VCとの共同投資という範疇に留めている可能性あり。


2) 企業内のプライベートクラウド市場は、VMWare、Oracle、IBM等の大手ITベンダーがSIソリューションを主体として提供するビジネスモデルである。こういう市場に、Amazonが段々と入りにくくなってきている、という事を懸念している可能性が大きい。Cirtas社のようなアプライアンスという製品をもつハードウェアベンダーと組む事により、SIソリューションモデルの中にAmazonのサービスを、SIが導入しやすい形式で提供する事が必要だ、とAmazonが認識してる可能性あり。


3) SMB、Web2.0市場は、Amazon Web Servicesを大きく支えているが、今後の市場予測では、クラウドの市場はエンタプライズ系にドンドンとシフトすると共にSMB、Web2.0企業からの売上マージンが薄くなってくることが予測されている。Amazonとしては、従来の顧客層に依存したビジネスモデルを継続する事に大きな懸念を感じているのでは無いか、と予測できる。


市場を独占しているAmazonであっても、常に成長戦略を開拓し続けることが重要であり、じっとはしていられない、という状況である。

データセンター業界ではクラウドは必要ない、とされている意外な事実

AFCOMと呼ばれる、データセンターの業界団体が、2009/2010年のデータセンター傾向についての業界調査を行い、その内容を報告している。

このデータセンター業界におけるクラウドコンピューティングに対する意識調査を行ったところ、非常に興味深い結果がでている。

まずは、データを生のまま見てみたい。
下記が、データセンタで採用されている様々な新規技術と、それを実際に採用した、都'回答している比率をまとめたものである。
Cloud Computing 14.90%
Cluster Computing 50.00%
Virtual Processing 72.90%
Web Applications 70.40%
Automation 54.80%
クラウドコンピューティングを実際に採用している、と回答しているデータセンター事業者の数が、15%以下、とかなり他の技術と比較しても著しく低い状態にある、という事がが分かる。

一般の企業でクラウドコンピューティングの採用割合は伸びており、調査によって数字はまちまちであるが、ものによっては全企業の50%がクラウドコンピューティングを何らかの形で採用している、という統計もある。それと比較して、データセンターでは何故こんなにクラウドの採用状況が低いのか?


もう一つ、同じ調査で出ている結果をみたい。

これは、データセンタ各社が採用を考慮したが、最終的に断念した技術を列挙し、それぞれの割合を示している。
Cloud Computing 46.30%
Cluster Computing 11.70%
Virtual Processing 9.60%
Web Applications 4.80%
Automation 15.40%
非常に興味深いのは、クラウドコンピューティングがこの結果だと46%、と他の項目を大きくなる、引き離して大きい、という事である。

つまり、データセンター業者は、クラウドコンピューティングについては調査を行い、評価も行ったが、多くが最終的に採用しない、という結論に至っている、という現実である。

この状況を、どの様に分析すべきか? 筆者は次の点が要因なのではないか、と想像する。

(1) データセンター業界において、まだクラウドのビジネスモデルが確立していない、というのが要因である可能性が高い。 Amazon Web ServiceやGoogle、Microsoft、Rackspaceといった超大型のデータセンターを運用するクラウド事業者が市場の大部分を専有する状況の中、一般データセンターとしては今更スタートしてもビジネスとして成立しないのでは、という懸念を持っている、と想像できる。

(2) データセンターのクライアントである企業が、そもそもクラウドコンピューティングに実は慎重になっているのでは。 企業での採用はたしかに急速に伸びているが、それを伸ばしているのは企業の各事業部門であって、IT部門ではない、という点がある。IT部門は意外とクラウドに対して慎重に構えていて、それが結局データセンターに影響を及ぼしているのでは、と想定できる。

(3) 技術的に、クラウドを構築して運用するのに、かなり専門的な知識と、ノウハウが要求される、という事実がハードウェア・ファシリティ系のノウハウ中心のデータセンター業界では敬遠される理由になるのでは。データセンタの仮想化まではVMWare等大手のベンダーの技術を導入する事で実現できるが、その先、クラウドAPIの実装、各種自動化ツール、監視ツール、クラウド独自の障害検知・対策ツール、マルチテナントのインフラ、クラウド向けの課金システム、等ソフトウェアソリューションが非常に多く、どれも提供者が小さいベンダーが主体で、オープンソフト系も多い。データセンターとしては今までに無いノウハウを要求される事になり、リスクがどうしても高くなってしまう、というのがクラウド不採用の大きな原因になっている、と想像する。

2010年9月29日水曜日

Amazon Web Serviceの登場で、企業が本当に考えなければいけない事:運用ガイドラインの提案

企業、特にエンタプライズにとって、クラウドコンピューティングはどのように使われているのだろうか? 最近多くなってきている記事は、企業の幹部の想像を大きく超えるクラウド利用が企業の中で展開されている、という内容のものが多い。

ある企業のCIOが、企業内のAmazon Web Serviceの利用状況の調査を経理部門に依頼したところ、何と50個ものAWSアカウントが存在する事が判明した、という事が報告されており、他の企業でも同様な状況を発見している。

北米においても、企業でのクラウド、特にAmazon Web Serviceの利用の現状については、意見が分かれている。 SMBやWeb2.0企業を中心として利用されて、大企業ではテスト・評価程度の利用しかない、という人と、大企業でのAWSの利用率は質・量と共に非常に高くなってきている、と述べる人と、大きく食い違う。

何故、企業の管理サイドが認識しない状態でクラウドコンピューティングの利用率がこれ程までに増えていってしまうのか、次の様な要因が考えられる。

調査会社である、RedMonk社のStephen O'Grady氏の分析が非常に興味深い。

RedMonkの調査によると、昨今の企業の中におけるIT技術の判断は、実質的には企業内のソフトウェア開発部門が実権を持っている、という興味深い分析結果がでている。オープンソースが登場し、企業の中で使われる様になってきた頃からこの傾向が強まった、と見ており、その影響で、いわゆるボトムアップ型のITソリューション導入をパターンが形成されている、と説明している。 このボトムアップ型のIT導入傾向にあるよって、会社の管理部門、特にCIOが皮肉にも企業内のITの状況を一番最後に知る事になる、という問題が発生している。

CIOが日頃接しているISVにもこのギャップを生む要因がある、とO'Grady氏は述べている。ISVの多くは、クラウドコンピューティングの非常にマージンの低いSubscription型のビジネスモデルを採用する事を基本的には避けたい、と思っており、従来の高マージン型のSIありきの導入プロジェクトを強くCIOに対して推奨する傾向がある、と指摘している。 特にクラウド側は価格競争に非常に長けているAmazon Web Serviceであればなおの事、避けたい、と思うところである。

当然、この傾向による問題点は管理部門とソフトウェア開発部門とのギャップだけに閉じない。組織が認識しない内に企業内のアプリケーションの導入が進み、企業内のガバナンス、特に個人情報、機密情報の管理にかかるルールや規制がアプリケーションが開発・運用を開始してから後付けであてがわれる、という状況が大きな問題となっている。 

レポートにおいては、企業としてどのようにクラウドを利用して行くべきか、いくつかのガイドラインを提案しており、今後の日本におけるクラウドソリューションの導入による際しても後付の導入ではなく、必要なところに積極的に導入できるProactiveな戦略の立ち上げが必要であろう、と述べている。

ガイドラインは下記の通り。


1。 企業としてクラウド状況がアプリケーションが運用する際のガイドライン等を早急に作る必要がある。

既に企業内でのクラウドの利用率はかなり高くなっている、という前提で、それをどのように企業内で管理、運用が出来るのか、ルール造りを進める必要がある。

非常に重要な要件は、各部門が意識していない、企業内のセキュリティ、監視、等の管理ルールをこういったアプリケーションに適用する必要がある、という事である。クラウドを導入する部門ユーザは、恐らくそういう問題に対しては殆どの意識せずに導入しているがケースが多いからである。O'Gradyは、これを Cloud Boomerang と呼び、利便性を優先したがために性急に導入したクラウドアプリケーションが企業内で結果的に問題を起こす要因になってしまう、という問題である。

クラウドアプリケーションを導入する際には企業内のIT管理を部門といっしょに評価を行うことがルール作りをする事の重要性を主張している。その際には、評価基準を必要十分の範囲にし、不必要な審査の時間をかけすぎない様にする配慮が必要である。 また、上記の企業内のコンプライアンスに関する要件は標準的に適用できる手法も必要であろう。

2。 コンプライアンスに関する分析、そして準拠のための手続きを明確にする

企業内のアプリケーションをクラウドに移行する、または新規のアプリケーションをクラウド上で導入する、等クラウドアプリケーションは様々な方法で企業内に入って行くが、いづれの方法においても企業内のコンプライアンス要件を満たす形で導入、運用が行われる必要がある。

クラウドアプリケーションをどの様な方法でコンプライアンス要件を満たすのか、専門のチームを企業内で組織化する必要もある。 

3。 クラウドアプリケーションへの投資については出来るだけコントロールできるる施策を

クラウドアプリケーションの企業内での浸透は、気がつかない内にドンドンと広がっていく、というのが特徴である。 初期投資が少ないうえに、コストも比較的安いため、非常に入りやすい、というのがその理由、とされている。 その広がり方はオープンソフウェアの広がり方と非常に似ている。

しかし、そのクラウドのコストも、広がりと共に総額が大きくなっていく、というパターンがよく見受けられる。どの様な使われ方なのかを分析した上で、計画的なクラウドの採用を促進し、従来のIT投資からの移行を図る、等の企業内IT戦略の見直しが必要になっていくる、と思われる。

重要なのは、社内のクラウド利用がコントロールできない状態まで放置しないために、早目に社内の仕組みを作っていく事であろう。



日本のIT市場においても、Amazon Web Services がどの程度企業内での使われているのか、把握するための手段、また利用状況が明らかになった時点で、どの様な対処をすべきなのか、社内のルールを明確にする必要がある、と思う。  一つの方法としては、完全日本シャットアウトする、というパターンがあるが、果たしてそれが長期的な視野で良策なのか、よく考える必要がある。  上記のボトムアップ型のIT戦略についてもある一定の評価を行い、効率性のいいアプリケーションは、その様な方法を積極的に採用する事も選択の一つである、と考えられる。その際には、十分状況をコントロールする仕組みは持ち、ガバナンス等、企業全体として必要な要件については十分対応できるる体制を持つ事が有効なのでは、と思われる。 

企業内に、クラウド採用・運用の専用組織が必要になってきている、と思われる。単純に技術的な評価だけではなく、コスト、ガバナンス、再利用性、等の面からも評価ができる専門組織が必要になってきている、と提案したい。



2010年9月26日日曜日

SAPがAWSにアプリケーションを移植し、サービスを提供開始

SAPとAWS(Amazon Web Services)との接点が生まれる、とは誰が想像できたであろうか?

と言うと、少し言い過ぎだと思うが、自社クラウドインフラでSaaS事業を展開しているSAPがわざわざAWSのインフラを採用してまで展開するサービス事業というものはなんであろうか?

SAPの発表によると、自社のCarbon Impact OnDemand と呼ばれるアプリケーションの新規バージョン5.0を、AWSプラットホーム上で提供を開始する、と述べている。

このCarbon Impact OnDemandというソフトウエアサービス、企業の電力消費量を計測し、CO2排出削減に寄与する機能を持っている。 

SAPのVishal Sikka氏によると、今回のSAPプロダクトをAWS上で提供する事によって、
"That gives us a tremendous benefit of low-cost elastic performance and scalability," 
「低価格でスケーラブル、尚且つ拡張性の高いAWSの特長をうまく活用できる事が我々にとっての大きなメリットである。」と述べている。

SAPは、OnDemandというキーワードの元でいくつかのアプリケーションサービスをすでに提供している。そのアプリケーション群の中で、Carbon Impact OnDemandは、企業の中でCO2排出に関係する様々なデータを収集し、Environmental Protection Agency(EPA)が規定している基準に準拠するためのレポートを作成する機能が提供される。

元々、SAP社が2009年に買収したClear Standards社の技術がベースとなっており、現在Autodesk社、Fisker Automotive社等がユーザである、と発表されている。

製品の機能はさておいて、むしろSAPが自社アプリケーションサービスをAWS上で提供する、
という事が非常に興味深い動きである、と言える。既に、Oracle、IBM、等の大手ITベンダーもAWSのサービスを再販している現状であるが、自社でもSaaSインフラを持っていて、尚且つMission Criticalアプリケーションサービスを提供できるクラウド事業者、という位置づけをAWSとの差別化要因にもしていたSAPが、敢えてAWSを利用する事、そしてその理由を"低価格で拡張性が高く、スケーラブルである" という理由で採用する、という事は、AWSのエンタプライズ市場での位置づけがかなり明確になってきていて、業界がそれを認識している、という事を示しているのでは無いか、と考えられる。

今までのAWSの持っていた、Web2.0 only、SMB Only、というイメージが急激に変わるタイミングが迫ってきているような、そんな印象を受ける記事である。

2010年9月21日火曜日

Oracleがとうとうクラウド事業に本格参入することをOracle WorldでEllison氏が表明:プライベートクラウドに完全フォーカス

一部では予想されていたが、Oracleがとうとうクラウドの戦略を明らかにし、クラウドビジネスへの参入を正式に表明した。


戦略の名前は、Exalogic Elastic Cloud と呼び、プライベートクラウド向けのハードウェア/ソフトウェアシステム製品。
30台のサーバ、それぞれ6台のコアCPUを搭載し、CPU同士をInfinibandで接続する、という構成。 OSはLinux、もしくはSolarisを選択でき、Oracle社が得意としているミドルウェアの製品ラインアップは充実している。 

Oracleの正式ページはここ
http://www.oracle.com/us/products/middleware/exalogic/index.html

発表の席上に於いてLarry Ellison氏は、"Exalogic is one big honkin' cloud" と述べている。
Exalogicはそれ自体が巨大なクラウドインフラである、という意訳になる。
以前、Ellison氏は、クラウドを否定する人間の一人として、かなり厳しい意見を述べていた人間であるが、ここに来て改めてクラウドの存在を認めるどころか、自社のクラウドのソリューションをハードウェア主体のシステム事業として位置づけた理由はどこにあるのか、業界ではいろいろと意見が飛び交っている。

Ellison氏は今までの自分の言動に対して、こう述べている。
"People use the term to mean very different things. I've actually been very frustrated and outspoken,"
"Too many existing technologies have been reborn and rebranded cloud computing,"
「クラウドコンピューティングの定義が各社によってあまりにも異なっていた事が問題であり、それに対する不満は述べてきた。 既存の技術を単に形を変えただけなのに、クラウド、と呼んでいるケースが多すぎる。」
相変わらず、今日のクラウドに対して持っている批判的なスタンスに対しては修正はしていない。

一方では、クラウドコンピューティングの"理想的な"事例は2つある、と述べている。

一つは、Amazon Web ServiceのEC2。  これはオンデマンドで仮想化されたマシンインフラの上をアプリケーションが自由に利用出来る、という点において、クラウドコンピューティング、という言葉を定義した、という点で貢献している、のEllison氏は述べている。

Oracleの提供するクラウドソリューションは、AWSと同じコンセプトの基づく、「クラウドコンピューティング=プラットホーム」である、と主張している。  OracleのクラウドソリューションがAWSが唯一異なる点は、すべてファイアウォールの後ろで稼働する、という点である、と述べている。

一方では、Salesforce.comの提供するソリューションについては、「On-Demand CRMソリューションではあるが、単にインターネット上に一つもしくは2つのアプリケーションを動かしているに留まっている」、と述べている。 

Exalogicは、広い範囲のアプリケーションをサポートし、特に自社のSiebel、E-Business Suite、そして新しく発表した、Fusionをサポートする、と発表している。

Exalogicは、元々は2008年に発表した、Exadataと呼ばれるデータベースマシンをベースとしており、それに買収したSun Microsystems社のソフトウェア技術を統合したもの、と説明されている。

興味深いのは、先日までHPのCEOを努め、スキャンダル事件で首になった後、Oracle社に採用されたMark Hurd氏がこのExalogicの事業責任者になる、ということである。  HPとOracleの間の競合関係は、このクラウド事業を起点にさらに激化するもの、と想像される。 

プライベートクラウドがすなわち、Oracleのクラウドである、という事がここではっきりした、といえる。
以前からプライベートクラウドが本当のクラウドなのか、という疑問を投げかける議論が多く登場しているが、ここでOracleが進めるクラウド事業は、AWSの進めるクラウドと大きく違う点がある。
1) 特定のハードウェアを顧客が購入することが前提になっている。
2) IaaSレイヤーの上のミドルウェアもOracle固有のソフトウェア、という限定がある。
3) 企業として利用出来るのは、Exalogicと呼ばれるハードウェアが一つの単位。  これ以下の小さなインスタンス直接は導入できない。

NISTでも定義されている、パブリッククラウドの元々の価値は、早く、安くコンピューティングリソースを導入することが出来る、という点である。  Oracleの提供するクラウドソリューションはそのいづれも提供する事を目的としていない、という点は認識する必要がある。  一方では、パブリッククラウドの問題点である、セキュリティ、プライバシー、SLAが不十分である、という点は、Oracleが自社のエンタプライズ向け事業でのノウハウをフルに活かし、Exalogicでは解消される、と期待すべきである。  パブリックとプライベートのクラウド事業、名前は似ているが、段々と異なるビジネスモデル、顧客ターゲット層を狙う別々のビジネスになっていく事が、今回の発表でいよいよ明確になった、といえる。 

パブリッククラウドサイドの方から見て、今回発表されたOracleのクラウド戦略は、「クラウドではない」、と評価する様な内容の記事が今後多く登場してくるものと想定される。  ただ、こういった、高セキュリティ、高SLAのシステムのニーズは今後も成長していくのは明らかであり、批判とは裏腹に市場としては伸びていくもの、と考えられる。 

Amazon Micro Instances: 小さな単位のCPUリソースを提供、かなり戦略的な価格で登場

Picture Credit: Allthingsdistributed.com
先日発表されている、Amazon Web Servicesの新しいサービスモデル、Micro Instances、実は、Rackspace Hosting社が自社のVPS(Virtual Private Server)クラウドサービスとして以前から提供していた事は意外と知られていない。  Rackspace Hosting の提供しているVPSサービスは、わずか256MBのRAMを搭載したLinux Cloud Serverを採用し、一時間あたり1.5セント(月額で約$10.95程度)の価格で提供している。

Amazon Web Services の提供するサービスは、明らかにRackspace Hosting社のサービスへの対向を狙ったもの、と言える。  

そもそも、Micro Instancesは、クラウド上で提供されるCPUインスタンスを非常に小さな単位で提供し、ニーズの上昇と共に小さな単位でバースティングするモデルを指す。主として、
次のような負荷の低いWebサーバのニーズに対応するサービスに利用される。
  • DNSサーバの、ロードバランサー、プロキシーサーバ、等、トラフィック量が低いサーバ
  • データアップデート、システム監視、等のcronの様なジョブスケジューラが稼動するサーバ
  • トレーニング等、教育用のサーバ
こんな様なシステムコンポーネントまでも簡単にクラウド化できる時代になっているのである。

AWSの提供するMicro Instancesは、613MBのメモリを搭載し、EBSストレージのみを提供する。Linuxに加え、Windowsを32ビット、64ビットの両環境で提供され、さらにCloudWatchというシステム監視サービスも提供され、負荷状況の把握ができる様になっている。価格体系は、On Demand(通上の価格)に加え、Reserved Instances(長期契約)、Spot Instances(オークション)も提供される。

価格は、Linuxが一時間あたり2セント、Windowsが一時間あたり3セント、と非常に安い。また、Linux版のReserved Instanceの価格帯は、さらに安く、年間契約の場合は 0.7セント/時間、とRackspaceを下回る、異常なまでの安さである。

価格戦略では相変わらず積極的な動きを見せるAmazonであるが、今回のように単なる値下げ戦略を取るのではなく、必ずターゲットがあった上での戦略である、という事を分析しながら今後のAmazonの戦略を見極める必要がある。  

日本市場にAWSが登場する日は近いが、いよいよ事業を開始し、競合各社の動きを見据えながら、最初に誰をターゲットにするのか、非常に興味深いところである。AWSに対向するサービスを提供するIaaSベンダーとしては、どの様な価格戦略で対向すべきか、検討する必要があるが、今までのAmazonの値下げ戦略(過去に10回ほど実施)を参考にする事ができる、
と言える。

2010年9月20日月曜日

IPOの可能性も示唆されているSilver Springs Networks社の幹部2名が会社を離れる

Silver Spring Networks社の幹部が2名が、同社を離れている、という事が明らかになっている。
Silver Springs Networks社は、IPOを計画していることで話題を集めているが、そのさなかでの退職は異例の事として話題になっている。 

退社したのは、下記の2名;

Judy Lin:  Chief Product Officer
同氏は、元はCiscoのEthernet Switching Groupから移ってきた人間で、当時はCiscoとSilver Springs社との間のライバル意識がかなり高まってきた最中の移動である。

John O'Farrell: Executive Vice President of Business Development
O'Farrell氏は2008年前半にSilver Springs社に移ってきた人間。  Silver Springs退社後は、Andreessen Horowitz(Venture Capital)に参加した、との事。

AMI技術を持っているベンダーが数多く登場し、Silver Springsはその先駆け的な存在で、$2.75億ドルの資金を調達しながら市場の大きなシェアを構築し、CiscoやGEの様な大きなプレイヤーの登場も促してきた要因を作っている。  いまではCiscoとの競合も非常に厳しくなってきており、先日はItron社との戦略的提携、ArchRock社の買収等、動きが激しくなってきている。 

http://feedproxy.google.com/~r/greentechgridtech/~3/u5d2Qp6olNU/


2010年9月13日月曜日

AWSの値下げ攻勢:10回目に達し、改めてIaaS市場の激しさを分析

VMWorld開催中の期間を狙ったのかどうかは定かではないが、Amazon Wed Serviceがまた、自社のサービスの価格値下げを9/1に発表した。

今回は、High-Memory Double Extra Largeインスタンスと、High-Memory Quadruple Extra Largeインスタンスの2つのCPUサービスが対象で、19%の値下げを刊行している。

いづれも、大量のオンボードメモリを必要とするデータベースアプリケーションやmemcache等の用途で利用されるマシンイメージで、金融アプリ等、リアルタイム性の高いアプリケーションでの利用が促進される事が予測されている。

同社のブログで詳細が記述されている。
http://aws.typepad.com/aws/2010/09/amazon-ec2-price-reduction.html

この発表の中身の詳細はさて置いて、この値下げの発表はAmazonにとって、過去一年半の間で10回目に当たる、という点に注目したい。

下記がとあるサイトが調査した、値下げに関わる発表の内容を整理したもの。

AWS Price Announcments


  • Reserve Instances: リザーブインスタンスの登場(CPUリソースをまとめ買いした時の割引制度)
  • Lowered Reserve Instance Pricing: リザーブインスタンスの値下げ
  • Lowered EC2 Pricing: EC2の価格帯を値下げ
  • Lowered S3 and EU Windows Pricing:  S3と、EU Windowsサービスの価格値下げ
  • Spot Instances:  スポットインスタンスの登場 (余剰CPUリソースをオークション形式で販売する制度)
  • Lowered Data Transfer Pricing:  データ転送価格の値下げ
  • Combined Bandwidth Pricing:  EC2, S3, RDS, SQSで使用する通信費を全部一括支払い
  • Lowered CloudFront Pricing:  CDNサービスの値下げ
  • Free Tier and Increased SQS Limits:  SQSの価格体系変更
  • Lowered High Memory Instance Pricing: 今回の値下げ発表

値下げを行うサービスの種類、そしてその値下げの程度は、本業であるe-Retailing事業から引き継がれているDNAが大きく寄与している、と考えられる。当然ながら、その値下げの戦略は、ユーザ獲得を目的としているが、その上に特定の強豪相手をターゲットにしたビジネス戦略が織り込まれている、と考えるべきである。  また、値下げをする程度を見極めるためには、自社内のコストと売上の性格な把握、さらに短期、長期の売上予測がかなり内部で正確に、さらにシステマティックに行われている、と予測するべきである。 

追随するクラウドプラットホームベンダーとしては、AWSと競合する/しないは別として、この辺のノウハウの構築、「サービス事業+ユーティリティコンピューティング事業」という点から今後のビジネスモデルとし整備していく必要のある機能ではないか、と強く感じるところである。

市場のニーズに押されてクラウドサービスを始めたはいいけど、どうも事業収益に繋がるのかどうか、よく見えない、という不安をもったままReactiveに市場参入するのはできることなら避けたいところではある。 


上記の記事を掲載したサイトは、さらにAmazon Web Serviceの発表している、技術的な機能拡張に関するアナウンスも統計をとっており、次の表にまとめている。

aws-feature-releases-by-year

見ての通り、価格戦略だけではなく、機能の拡張についてもかなり積極的に行っている、という事が見える。  市場のリーダー格の地位を維持するためにはこの面での努力も非常に重要視している、という事がわかる。   この点に於いても、IaaSベンダーとしては重要視すべきで、クラウドプラットホーム事業は常にイノベートし続けるビジネスモデルであること、さらに他社が実施していない、ニッチな市場セグメントを常に開拓し続ける必要がある、という事を認識するべきであると思われる。 

IaaSをユーティリティコンピューティングと呼ぶことが多いが、「ユーティリティ」という言葉がもつ、ゆったりと構えたイメージとは裏腹に、上記のような激しい攻略が展開されている厳しい競争の市場である、という事を改めて認識する記事である。

http://feedproxy.google.com/~r/neoTactics/~3/waLuvzP56GI/aws-price-reduction