2010年7月14日水曜日

Amazon Web Serviceを業界標準にすべき、という意見に対して賛否両論が飛び交う

Amazon Web Services
San Franciscoで開催された、Structure 2010と呼ばれるGigaOm誌主催のコンファレンスで業界著名人のパネルディスカッションが行われ、その中でAmazon Web Serviceを業界標準として採用すべき、という意見が出され、賛否両論を起こしている。

パネルの出席者は次の通り:
Marten Mickos, CEO of Eucalyptus
Michael Crandell, CEO of Rightscale
Joe Weinman, vice president of Strategy and Business Development at AT&T.

この中で、Eucalyptus社のMarten Mickos氏が次のコメントを表明している。
「80年代のPC標準が(業界標準で)決まったのと同じように、Amazon Web ServiceのAPIがクラウドの業界標準として位置付けられるのでは。」

同氏がCEOと務めるEucalyptusは、オープンソフトウェアでAWS互換のクラウド環境を構築するベンダーであり、上記のスタンスを取るのはごく自然な事であろう、と想像される。

このコメントに対して、CloudSwitch社のVP、Ellen Rubin氏は自分のブログで下記のようにコメントしている。

If there were an industry standard, Amazon certainly has a strong claim for it. They're the clear leader, with technology second to none. They've made huge contributions to advance cloud computing. Their API is highly proven and widely used, their cloud is highly scalable, and they have by far the biggest traction of any cloud. So full credit to Amazon for leading the way in bringing cloud computing into the mainstream. But it's a big leap from there to saying that Amazon should be the basis for an industry standard.

「業界標準という事であれば、当然AWSはその候補として有力であるのは確か。クラウド市場の成長に大きく寄与しており、彼等が提供する事が技術は広く採用されている。しかし、その実績を評価する事と、AWSを業界標準として位置付ける事とは別な議論なのではないか?」


AWSをDeFacto標準(事実上の業界標準)として表向きに位置付けている人は数人おり、LinuxのベンダーであるCanonical社のSimon Wardley氏や、Enomaly社のCTO、Reuven Cohen氏などが有名である。

Cnetの記者であるJames Urquhart氏は、このパネルディスカッションのモデレーターとを勤めたが、彼のブログでは、下記のように解説をし、事を上手くまとめている。

「今の時点での事実上の標準としてAWSを位置付ける事に関して、賛否が分かれるとこではあるが、ユーザ数という事であればその理屈は通るケースもあり得る、と言える。しかし、長期的な視野でAWSが業界標準であるべき、という意見には次の理由により反論したい。」 

Urquhart氏の3つの反論とは次のような内容。

1.  AmazonのAPIは、様々なクラウドのインフラを構成するアーキテクチャの中で、Amazonのクラウドインフラにのみ通用する、独自のAPIである。これがグローバルに現在でも存在する複数のクラウド環境、ましてや今後成長と変化を続けるクラウドインフラの標準としては余りにも機能範囲が限定されているものである、と言える。一例として、AWSのI/O性能の問題が指摘されている。AWSのストレージとネットワークのI/Oの性能が不安定である事はよく知られている。これが業界標準になってしまっては適用できるアプリケーションの範囲が極端に狭くなってしまう。

2.  AWSを採用し、互換性を提供しているベンダーは、Eucalyptus、Cloud.com、そして新興企業であるNimbula社のみである。他は、殆どAWSのエミュレータ、もしくは上位レイヤーのメタAPIを提供する事が戦略を取っている。要するに、オープンソフトウェア業界を除けば、AWSを提供するのは、Amazonのみである。  ましてや、AmazonはこういったAWS互換ベンダーに対する何の事業保障もしていない、という点である。ビジネスとしては非常にリスクが高い、と言わざるを得ない。

3. クラウド市場がまだ若い故、今の時点で業界標準を決めて行くのは少し早すぎるのではないか。10年後のクラウド市場、今の時点で正確に把握する事により予測できる人間はいないはず。クラウドを構築するハード・OS・仮想レイヤーのアーキテクチャの種類がまだ非常に多い中、クラウドAPIを決めるのは順番としては早すぎるのではないか。

非常に高い人気を誇るAPI、としての認識を共有する事、一方ではそれを業界標準として位置付ける、という事は大きく異なる事である、と指摘している。筆者もこれには全くの同感で、どうも反論の方が若干強いようである。

日本の市場においては、Amazon Web Serviceも年内に本格的に運用開始される、という噂も強く、ユーザ数、導入事例が非常に多い、このクラウド事業が日本という市場でどのように成長していくか、が大きく問われるところである。AWS互換戦略をとるクラウド事業者も出てくるだろうし、対向して独自の仕様、もしくはベンダー数社が組んで対抗勢力として共通APIを構築する、という戦略も考えられ得る。 富士通がMicrosoft Azureと互換戦略を取る事を受けて、AWSとの協業路線を選択する大手ITメーカーくらい出てきてもおかしくはない、と思うところである。


このリンクがパネルディスカッションのビデオ:
http://livestre.am/cVM6

James Urquhart氏のブログはここ:
http://news.cnet.com/8301-19413_3-20010072-240.html