簡単に言ってしまえば、独自使用でクラウド事業に業界を席巻しているAmazon Web Services対抗の戦略、と片付ける事ができる。
事実、AWSの市場シェアは恐らく誰も追いつく事が出来ない規模に達している可能性があり、強いて上あればGoogle、Microsoftが規模的に競合できるインフラをもっている、という事ができる一方、提供するサービスの範囲、パートナー戦略、B2B市場での実績、では、AWSが先にいる、という解釈が一般的である、と言える。
Rackspace Hosting社は、運用しているWebサイトの数では、業界での唯一AWSに対抗しうる件数を誇るベンダーである。 それ故、クラウド事業者としてはAWSの競合として比較される事が多いが、Rackspace Hosting社がAWSのビジネスモデルと根本的に異なる面がある。 それは、本業がホスティング事業だ、という事であり、クラウドサービスはコロケーション、CPUレンタル、VMリース、メールホスティング、等のサービスメニューの一つでしかない、という事実である。
Rackspace自身からすれば、AWSと競合している、という意識があまり無い、とも言える。
それでは、OpenStackの発表は何を意図しているのか、まず事実関係から分析が必要になる。
OpenStackに関しては、下記の事実が明らかになっている。
1) OpenStackの意図は、クラウドインフラの標準化を狙ったものである。
2) OpenStackは、Rackspace社のCloud Files(既に入手可能)とCloud Servers、さらにNASAのNebulaプロジェクトからのコードによって構成されている。
3) 約25社がOpenStackプロジェクトに賛同し、OpenStackを管理するNPO企業からコードを入手している。
このOpenStackソフトウェアを利用すれば、誰でもハードウエアプラットホームをクラウド環境に変える事ができる。 コードは、Apache 2.0ライセンスに基づいて提供される為、無償で提供され、尚且つ、OpenStackをベースに開発した成果物も商品化が可能になる。
このコンセプトに賛同したベンダーとしては、大小織り交ぜ25社になる。 代表的なのは、Intel、Citrix、Riptano、Dell、Cloud.com、AMD、Scalr等のベンダーとしてはであり、業界の広い範囲をカバーしている。
決してオープンソフトウェア市場のプレーヤーでは無い、Rackspace社が自社開発の基盤ソフトウェアを何故あえてオープンソフトウェア市場に寄贈する判断をしたのか、RackspaceのPresident of Cloud Operationsである、Lew Moorman氏の下記のコメントから類推できる。
"What Android is to smartphone operating systems, we want OpenStack to be for the cloud,"
「AndroidがスマートフォンのOSとして達成しようとしている事を、OpenStackはクラウドで達成しようとしている。」
IT業界においてハードウエア仕様、通信プロトコル、OS仕様、等が業界標準化されていったように、IaaSインタフェースもいづれはCommodity化される運命にある、という事を業界は以前から予測していた。Rackspace社が狙っているのは、AndroidがiPhone OSの牙城を切り崩すためにオープンソフトウェアのモデルを導入したように、OpenStackをもって独自仕様のAmazon Web Serviceの市場をきり崩そう、という狙いなのでは、と考えられる。
もう一つ、Moorman氏がコメントしている事が非常に興味深い。
"We were forced to invest in the (cloud) platform, whether through buying or investing in development resources,"「我々は、強制的にクラウド事業に投資をする事を強いられた。」
また、さらに、
"We want access to technology, not to create technologies,"「我々のビジネスモデルは、技術を利用する事によって付加価値を生む事であって、技術を作る事では無い。」
これは、クラウド事業に取り組んでいる、日本のITメーカー、SI事業者、ホスティング事業社全般にも当てはまるジレンマなのでは無いか、と想像される。
という事であれば、OpenStackは非常に有用なソリューションの一つとして考慮すべき技術である、という事が出来るのでは無いか、と思うところである。
少なくとも、今からAmazon対抗のクラウド事業にインフラを開発する、という計画はあまり現実的な解では無い、という事ができる。