2010年7月21日水曜日

Rackspaceが発表したOpenStack、その背景でOpen SourceとOpen Coreの違いを考察

Rackspace Hosting社が、OpenStackと呼ばれるオープンソースの提供を発表し、Intel、Dell、AMD、そしてNASA等、多くの企業から支援を受ける形で話題を呼んでいる。  

クラウドの共通APIの制定や、クラウド間のアプリケーション互換性を保証する議論が業界内、特に主要クラウドベンダー同士で行われているが、今ひとつそれぞれの事業モデルに合致する方法論が見出される事なく、独自仕様のクラウド環境が乱立する市場が形成されているのが現実。

Rackspace社も同様の立場におり、本来なら自社の顧客を独自仕様で囲い込みをし、他社プラットホームに移行させない様にする戦略を取るのが定石であろうが、Amazon Web Servicesに続いて、世界で第2位の規模を誇るクラウド上にベンダーがあえてオープンソースの動きに出たのはいくつかの理由があげられる、と言える。

一つは、Amazon Web Servicesに次いで、世界で第2位の市場規模をもつクラウドベンダーでありながら、Amazonを始め、追随するクラウドベンダーとの競合は厳しいものがあり、あえて自社のコードを公開する事によって独自性を打ち出す、という戦略にでた、というのが業界での一般的な見方である。

もう一つの理由は、このオープンソースの採用にNASAが賛同し、OpenStackの共同開発に寄与している、という点である。NASAが開発に参画した背景には、自省が2年前から開発を進めている、Nebula Projectと呼ばれるクラウドインフラとの関係がある。

元々、Nebula Projectに着手したのは、市場に存在するクラウドソリューションの殆どが、ビジネスソフトウェア向けのアーキテクチャである、という事と、それを科学技術計算向けに適用しようとすると非常に高額になってしまう、という懸念があった為、とNASAのIT部門のCTOであるChris Kemp氏が述べている

OpenCoreをビジネスとしているベンダーとしては、何を無償で提供して、何を有償化するのか、というのは非常に重要な事業判断となる。オープンソースのライセンス条件(無償配布)を満足すると同時に、事業収益も確保する必要があるからである。 コンセプトとしては、開発者コミュニティに対しては無償でコードを提供して、必要な機能を自由に開発で器量な環境を整える事と、一方では一般ユーザに対してはすぐに利用できる広範囲な機能セットを有償で提供する、という2つのビジネスモデルを提供する事ができる一般的に受け入れられている様である。

一見、簡単に見えるようであるが、境界線で難しい問題が発生する可能性があり、Sugar CRMの事例がよくその事例としてあげられる。Sugar CRMの問題は、自社が発表したSugar 6という最新のバージョンが、オープンソフトウェアベースでありながら、有償で提供されている一方、それと全く同じGUIをサポートしたSplendidCRMという製品がオープンソフトウェアとして無償で提供されている、という事である。まだ業界内でコンセンサスが得られていない時点で結論を出す事は出来ないが、この問題はオープンソフトウェアの位置づけと、OpenCoreと呼ばれるソフトウェアの無償・有償の切り分けの考え方にも大きく関係してくる。

NASAがEucalyptus社のクラウドソフトウェアを利用していく中で、同様な問題にぶつかっていた、という事が明らかになってきている。

NASAは、Eucalyptusをベースに、演算エンジンとファブリックコントローラを呼ばれる機能をNovaという機能セットとして独自開発した際に、オープンソフトウェアとして公開しようとした際に、Eucalyptus社のOpenCoreのビジネスモデルに反した為、NASAはEucalyptus社と決別し、Apache 2.0のライセンスに基づいて公開する決断をしたのが結論。この過程において、Rackspaceが登場し、自社のOpenStack戦略の一環としてNovaを配布する事をNASAとの間で取り付けた、というのが現時点で理解されている経緯。

Eucalyptus社は、OpenCoreコンセプトを明確に打ち出しているベンダーの代表。自社の無償版とEnterpriseバージョンと呼ばれる有償版との間で明確な境界線を引き、上記に説明している様な2つのビジネスモデル、2つの顧客層をカバーしようとする戦略を打ち出している。

ところが、このモデルの内在する問題点を、自社の顧客に指摘され、尚且つ競合に移行されるきっかけの要因になってしまったのは、以下にも皮肉である、と言える。

http://bits.blogs.nytimes.com/2010/07/20/the-recipe-for-clouds-goes-open-source/

http://www.zdnet.com/blog/open-source/how-open-core-runs-afoul-of-the-paid-free-boundary/6887